妊娠糖尿病の回想録

長男の妊娠では何のトラブルもなく安産で出産できたけれど、次男の妊娠ではつわり明け早々妊娠糖尿病と診断されてしまった。妊婦健診の数日後、病院から電話があった。血液検査に異常があったとかで、後日75ℊOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)をするという。受けてみたら2時間後の血糖値が基準より10㎎/㎗高かったのでした。

75ℊOGTTは75ℊのブドウ糖を溶かしたソーダ水を飲んでその後の血糖値を計るというもの。血糖値は飲む前と飲んでから1時間後と2時間後の計3回計り、1つでも基準値を超えれば妊娠糖尿病と診断される。前日の夜から水以外の飲食は禁止の、時間もかかるしなかなか面倒な試験だ。ソーダ水を飲み終わったとき看護師さんに「あま~~いでしょ」と言われたけれど、ソーダ水は普通の炭酸飲料とほとんど変わらなくて、丸々半日間何も食べていない者としては素直に美味しく感じられた。でも、よくよく考えてみれば普通のジュースにもこんなに砂糖が入っているのかしらんと驚きながら。

飲み始めてから1時間が過ぎるくらいまでは平気だったけれど、1時間を過ぎたあたりから急に胸がドキドキし始めた。これまでもお昼を食べて1時間半くらいになると頭がぼうっとしたり、やたらに気持ち悪くなったり、猛烈に眠くなったりすることがあった。それってつわりのせいだと思っていたけれど、本当は妊娠糖尿病のせいだったのかもしれないなんてぼんやりと思いながら、引っかかるなら2時間後だなと踏んでいたら、やはりその通りだった。

そうかもしれないと思いつつも、結果を知ったときはショックだった。信じられない。食事には気を遣っていたのに。けれど、今思えばきっと食事に気を遣いすぎていたのだろうと思う。長男を出産してからは授乳のためにご飯を山盛り食べ、幼児食が始まったら子どもが好きなこってりとした料理を作ることが多くなり、できるだけ早くふたり目が欲しいなぁと思っていた私は妊活のために栄養あるものをいっぱい食べるようになっていた。当時は目の前の課題をクリアするために必死だったのだけれど、結果として気の遣い方を間違えていたのだ。加えて私の夫は身長が190㎝近くある大男で、その分よく食べる。そんな夫といつも一緒にご飯を食べていた私は、気づけば自分にとっての適量がわからなくなっていたのでした。

でも、妊娠糖尿病になった原因はそれだけじゃないかもしれない可能性もあって、私より9歳年上の夫は私がまだ20代だった頃によく「30になるといろいろ出てくるんだよー、30になるとわかるよー」なんて言っていた。そういえば、私は甘いものが大好きで、中学高校時代にはしょっちゅうチョコレート菓子を食べていたし(受験の願掛けを兼ねた〇ットカットが大好きだった)、お酒が飲めるようになってからはいつも甘いカクテルを飲んでいた。なるほど、さかのぼってみるとそうなってもおかしくない素地は出来上がっていたのだ。そういう日々のちょっとした不摂生が積もり積もったものが、いよいよ30を過ぎて初めて表に出てきてしまっただけのことかもしれない。

食事だけではなくて、ストレスや運動不足なんかも糖尿病の原因といわれている。私は自分でもこれが原因のうち少なくとも半分は占めているのではないかと思う。それから家族歴。だが確かに私には70代で糖尿病と診断された祖父がいるが(90を過ぎた今も健在)、それが妊娠糖尿病となった決め手とは思えない。その他の妊娠糖尿病になりやすい人の特徴には肥満や35歳以上などいろいろ挙げられるがどれにも当てはまらなかった。考えられる範囲で原因を片っぱしから推測してみるけれど、結局はっきりしたことはわからない。かかっていた糖尿病外来の先生によればホルモンの影響が大きいとのことだから、どんな生活をしていてもなっていたのかもしれない。

その日は受け入れられない気持ちと格闘しながら管理栄養士さんから今後の食事療法について聞いた。私の場合は1日1600㎉で、1食のご飯の量は120ℊ。そのうち昼食と夕食はご飯の量を60ℊずつ2回に分けて食べるという5分割食をすることになった。正直1600㎉と言われてもよくわからないし、食品の量については一応説明があったものの、具体的な食事内容についての話はなかったので、手探りでのスタートとなった。

とりあえずもち麦ご飯や玄米がいいということは教えてもらっていたので、早速白米から変えることにした。それからNHKガッテン! 血糖値をラク~に下げる! 科学の特効ワザ (生活シリーズ)を買って一通り目を通して、実践できそうなものは実践することにした。たとえばベジファーストや、きのこや海藻など食物繊維の豊富な食材を意識して食べるようにするなど。読んでみると当たり前のことばかりなのだが、結構参考になった。唯一なめこのフォンダンショコラというレシピにはぎょっとした。まぁたぶん美味しいのだろう。

前半はあんまり砂糖を使ったおかずや油っぽいおかずにしなければ120㎎/㎗を超えることは少なかった。ただし朝食で1度にご飯120ℊを食べるのは厳しいことがわかったので、朝食もご飯60ℊ、補食で60ℊと2回に分けることにし、早々に6分割食に切り替えた。前半は気をつけるのはこれくらいで済んでいたけれど、お医者さんから「血糖値って20週以降から上がりやすくなってくるんですよ~、これからが本番ですからね」と脅されていた通り、その頃から徐々にこれまでの食事をしていても今までより10くらい高めに出ることが多くなっていった。あるとき朝食すら血糖値が120㎎/㎗を超えてしまった日があったので、その日から食事のときにご飯を食べるのをやめにした。ご飯は補食で食べるだけにしたのだ。そしてご飯の代わりに皿いっぱいの生キャベツを食べることにした。ご飯60ℊで大体糖質20ℊだから、おかずを含めて1日当たり60~80ℊくらいの糖質を摂取している計算だ。糖質をあまり含まないおかずだけのときに血糖値を計り、血糖値を計らなくていい補食でほぼ糖質のご飯を食べるなんてまったくどちらを計ればいいんだかあべこべだと思ったけれど、妊婦健診でも糖尿病外来でも問題なかったので継続することにした。

それから出産までの約半年の間、ほぼ毎日毎食生キャベツを食べ続けました。どうして生キャベツかというと、5万人を診てきた医者が教える 薬を使わず血糖値を下げる方法という本の中に、キャベツ・ファーストがおすすめだと書かれていたから(ご飯の代わりにしろとはいっていない)。朝は生キャベツにお味噌汁、納豆、昼はご飯の代わりに生キャベツを詰めたお弁当、夜は主菜、副菜、お汁に生キャベツ。何せ生キャベツはご飯の代わりだから、朝食に生キャベツとキャベツのお味噌汁とか、夕食では生キャベツに加えてサラダもつくというサラダサラダした献立も珍しくなかった。こんな風にキャベツには大変お世話になった。元々野菜が好きだったから毎食たっぷりのキャベツを食べることは全然嫌ではなかった。だが唯一カレーキャベツだけは最後まで美味しいと思えなかった。カレーキャベツとはその名の通り、ご飯の代わりに生キャベツをお皿に盛り、その上からカレールーをかけるというもの。すく冷めてしまうし、食感もあまりよくなかった。子どもはよく私の食事を見ては「どうしてお母さんは違うものを食べているの?」と言いたげな不思議そうな顔をしていた。

妊娠30週目に里帰りした。両親は最初「そんなの気にせんでも大丈夫っちゃ、ご飯いっぱい食べんとダメよ」という感じで事の重大さが全然わかっていなかった。けれど毎回ビクビクしながら血糖値を計ったり、いくら言ってもかたくなにご飯を食べようとせず、代わりに生キャベツをもりもり食べる私の姿をみて、すぐに協力してくれるようになった。ご飯は最初は実家に合わせて白米にしていたのだけれど、血糖値が上がりやすいと感じたので玄米に戻した。出産が近づくにつれて血糖値も上がりやすくなり、あるときは肉野菜炒めをお腹いっぱい食べただけで120㎎/㎗を超えてしまった日もあった。

妊娠糖尿病の間はほんとうにつらかった。だから37週に入ったらすぐに出産したくて、今か今か、予定日まであと何日とじりじりしていたが、結局陣痛がきたのは長男のときと1日遅れの39週4日目だった。今回のお産はきっと難儀するだろうと覚悟していた。ところが実際は陣痛が始まって3時間弱で出産したのだった。病院へは母と一緒に行った。夕方だったので、私が分娩室に運ばれてから母が方々に「深夜までかかるかも」と電話していたら助産師さんが「生まれました」と知らせに来てくれたそうだ。病院に着いて1時間もしなかったから母もとても驚いていた。看護師さんは「超スピード安産だね」と笑っていた。出生体重は3098ℊで小さすぎず大きすぎずの大きさだったから、自分のやり方でよかったのだろう。その後読んだ産科医が教える 赤ちゃんのための妊婦食という本では妊娠糖尿病の人の糖質摂取量は1日当たり60~80ℊと書かれていた。病院ではそんなこと教えてくれなかったけれど、やはり糖質はこれくらいに抑えないと食事制限だけの血糖値コントロールは上手くいかないのかもしれない。私の体重は11週のとき49.6㎏で、最後となった39週目の妊婦健診では53.1㎏。3.5㎏しか増えなかった。それにしてもこんなに食べなくてもちゃんと赤ちゃんがお腹の中で育ち生まれてきたのは驚きだった。

病院食は間に合わなかったので母が近くのスーパーでおにぎりとおかずを買ってきてくれた。「閉店間際だからもうお弁当もお惣菜も全然なかったんよ」と何とか残っていたものを買ってきてくれたのだ。どれにも半額のシールが貼られていた。ごくごく普通のサイズの白米のおにぎりを食べたのはいつぶりだろう。足りない栄養は身体が教えてくれるなんて聞いたことがあったけれど、まさにそんな感じであんなにも制限していたおにぎりに自然と手が伸びた。あまりにも美味しかったのでもう1つ食べた。こんなにもおにぎりが美味しいと感じたことはなかった。




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