魅惑のキャロットケーキ
大好きなお菓子のひとつにキャロットケーキがある。
初めて口にしたのは東京は中野にあるカイルズ・グッド・ファインズで購入したものだ。評判を聞きつけ、電車に乗ってゆらゆら揺られながら買い求めに行った。向かい側の座席に暖かな陽が伸び、眩しいくらいだったのを今でもよく覚えている。
ショーケースの中のキャロットケーキはこげ茶色をして、たっぷりのアイシングがかかっていた。これがアメリカで食べられているというキャロットケーキなのか。
家に戻るとそっと箱の封を切った。ケーキ皿にのせ、崩さないように気をつけながらフォークを入れ、口に運ぶ。
刺激的なスパイスの香りとともに甘くふんわりしっとりとした味わいが口の中に広がった。
にんじんがこんなに美味しいお菓子になるなんて衝撃だった。たちまちキャロットケーキの虜になってしまった。
それからはいろいろなキャロットケーキを試してみた。けれど、初めて食べたこのキャロットケーキにかなうものには出合えなかった。そのうちに私は、自分はキャロットケーキが好きなのではない、カイルズ・グッド・ファインズのキャロットケーキが好きなのだという結論に至り、ところかまわずキャロットケーキを買うのはやめた。
WFPBについて知ってから、植物性食材だけで油を使わずにキャロットケーキが作れないかと試行錯誤したこともあったが、これがなかなか難しかった。にんじんをすりおろすと大抵もちもちした食感になってしまうのだ。卵も油もなしに膨らませるのは至難の業に思えた。余談だが、海外のキャロットケーキのレシピを見ると”Grate carrots”と書いてはあるものの、写真を見ると実際はすりおろすというより千切りではないかと感じるものもある。すりおろすのと千切りするのでは食感が結構異なるのでレシピを見るときは注意してほしい。
ForksOverKnivesのキャロットケーキを作ったことも思い出深い。粉にはオートミールを使い、にんじんに加えデーツ、バナナ、レーズンが合わさり、油はまったく使わないのだ。どんなものが出来上がるのかまったく見当がつかなかった。
出来上がったものを食べてみると、黒々として重たそうな見た目とは裏腹に非常に軽い食感で、カシューナッツとデーツでできたバニラフロスティングがまた絶品だった。自分のイメージを超えたキャロットケーキの新しい広がりを感じた。
誤算だったのはレシピ通りに作ったら想像以上に量が多くて急遽型をもうひとつ用意したことと、デーツとカシューナッツを粉砕したら刃に負担がかかりすぎたらしく、フードプロセッサーが文字通りぶっ壊れてしまったことだ。
私はプロセッサーを買い直した。これについてはまた別の機会に書きたいと思っているが、それからは硬いものはあらかじめコーヒーミルでできるだけ細かくしてからフードプロセッサーに入れるようにしている。
ここのところにんじんがたくさん採れるようで価格がぐっと安くなった。最近はずっと千切りサラダと汁物ばかり作っていたが、久しぶりにキャロットケーキを作ってみるのもいいかもしれない。
プラントベースのキャロットケーキで最もメジャーなのは小麦粉と油とアップルソースを使う作り方ではないかと思うが、WFPB的な油を使わないレシピの場合はバナナなどの果物を加えることが多い。こちらはマンゴーとバナナが加わったキャロットケーキ。
その他、ローキャロットケーキ(カロリーは高くなるが、アーモンドパウダーで作るととても美味しかった)、マグキャロットケーキ、キャロットケーキ風オーバーナイトオーツ、キャロットケーキ風チアプディングなどいろいろなバリエーションがあり、いかにキャロットケーキが愛されているかわかる。あなたも自由な発想でオリジナルのキャロットケーキのレシピを作ってみてはいかがだろうか。